調光フィルムをゾーンに分けても、ゾーンは独立して動いてくれません。ひとつを駆動すると、他のゾーンにも実際に電圧がかかります。これは「フィルムの中を電気が横に漏れている」と説明されがちで、現に当サイトでも便宜的にそのように書いていますが、実際にフィルムの中を横に流れているものは何もありません。原因はゾーンが共有している電極のほうにあり、その一点から、影響がどこまで届くのかまで説明がつきます。
結論
| 上げるもの | 干渉の届く距離 | 代わりに悪くなること |
|---|---|---|
| 駆動周波数 f | 短くなる(1/√f) | 消費電力が増える/ゾーン内の電圧降下が増える |
| 面抵抗 Rs | 短くなる(1/√Rs) | ゾーン内の電圧降下が増える |
| 単位面積あたりの静電容量 cA | 短くなる(1/√cA) | 消費電力が増える/ゾーン内の電圧降下が増える |
干渉を閉じ込める方向に振ると、必ず別のところが悪くなります。これは偶然ではありません。以下で見るとおり、両方を支配しているのが同じ ωRscA という積だからです。フィルムを選び直せば問題を移すことはできますが、フィルムを選び直して消すことはできません。
PDLCフィルムは、透明導電膜をつけた2枚のPETで、液晶とポリマーの薄い層をはさんだものです。電気的には、少し損失のある誘電体をはさんだ平行平板コンデンサです。
これをゾーンに分けるとき、パターンを切るのは2枚の導電膜のうち片方だけです。もう片方はそのまま、フィルム全面にわたる1枚の連続した膜で、端のバスバーから給電されます。当社の検証もこの構成で行っており、スマートガラスシステムのページに載せている3ゾーンの試作も、市販のPDLCフィルムの背面側の共通電極を1枚のまま使っています。
つまりゾーンどうしは導体を共有しています。以下はすべてこの事実と、もうひとつの事実から出てきます。透明導電膜は電線ではない、ということです。PET上のITOはおおむね数十〜数百 Ω/sq の領域で規定されます。等電位の面ではなく、抵抗のある膜です。
隣り合う2つのゾーン A・B を考えます。コントローラは A を駆動し、B は基準電位に保っています。B は曇ったままのはずです。
A を駆動するということは、A の静電容量に交流電流を流すということです。この電流は必ず戻ってきます。戻り道は共通電極です。電流は共通電極の中を横方向に、ゾーン A の下からバスバーへ向かって流れます。抵抗のある膜に電流が流れれば、その向きに沿って電位の勾配ができます。すなわち共通電極はもう、どこでも基準電位ではありません。駆動しているゾーンの下でいちばん持ち上がり、離れるほど小さくなります。
ここでゾーン B を見ます。B 自身のセグメント電極は基準電位のままですが、その下の共通電極が持ち上がっています。B の液晶層にかかる電圧はその差ですから、まさに共通電極の持ち上がりぶんだけ電圧がかかることになります。ゾーン B は、ゾーン A の戻り電流によって駆動されているのです。
ここははっきり書いておく価値があります。対策をどこに探すかが変わるからです。共通電極の抵抗がゼロなら、干渉はまったく起きません。液晶が横方向に電気を通しているのでもなければ、ポリマーが悪いのでもなく、フィルムの不良でもありません。ゾーンが抵抗のある共通ノードを共有しているという、回路としてはごくありふれた現象です。
共通電極とフィルムの静電容量は、どこか1点にある部品ではなく、面に分布しています。共通電極の面抵抗を Rs(Ω/sq)、フィルムの単位面積あたりの静電容量を cA(F/m²)と書くと、膜の中を広がっていく電流と、静電容量を通って抜けていく電流の釣り合いから、駆動していないゾーンの下では
∇²V = jωRscA · V
となります。V は共通電極のその場所の電位、すなわち、いま見たとおりそのゾーンにかかってしまう電圧そのものです。これは RC分布定数線路(信号が減衰しながら伝わる伝送線路)と同じ式で、解も同じ形になります。乱れは距離とともに指数関数で減衰し、その目安となる長さが
λ = √( 2 / (ω · Rs · cA) ) ω = 2πf
です。駆動しているゾーンから λ だけ離れたところで、誘起される電圧は境界の約 37%、2λ で約 14% になります。冒頭の表は、すべてこの一本の式から読み取ったものです。
厳密には伝搬定数は複素数なので、乱れは減衰するだけでなく位相もずれ、境界のごく近くでは単純な指数関数にもなりません。λ は「どこまで届くか」の目安であって、そこで切れる境界線ではありません。
λ が小さければよい、つまり干渉は切れ目の両側 数mm に収まる縁の現象なのだ、と期待したくなります。そうはなりません。しかもそれは、特定のフィルムについて何も知らなくても示せます。
同じ ωRscA という積が、1つのゾーンをどこまで大きくできるかも決めているからです。バスバーから供給された電流はゾーンを横切って流れるので、遠い側の端はバスバーのそばより電圧が低くなります。これがバスバーからゾーンの端までの距離を制限している電圧降下です(当社が公開している目安は、100 Ω/sq 程度のフィルムを 60 Hz で駆動して1m 規模)。この電圧降下は距離 L の2乗に比例し、ωRscA にも比例して大きくなります。許容できる降下の割合を δ と書くと、
δ ≈ k · ωRscAL² → λ ≈ L · √(2k / δ)
k は給電の形で決まる 1 程度の係数です。結論は k によりません。δ は定義からして小さな割合(数%程度。そうでなければムラとして見えてしまう)なので、√(2k/δ) は必ず数倍以上になります。言い換えると、電圧降下が実用になる程度に収まっているフィルムであれば、干渉の届く距離は、作れる最大のゾーンの数倍になるということです。縁の現象にはなりようがありません。
実際に観測されるのもそのとおりです。当社のページに載せている6ゾーンの図では、隣のゾーンはほぼ透明になり、さらに離れたゾーンも意図せず透けたままです。隣で強く、離れるほど弱く、それでもフィルム全体に及ぶ——この現れ方が、λ がゾーンの間隔の数倍あるときの指数減衰の見え方です。
本物の「縁の現象」も別に存在します。仕組みが違います。セグメント電極どうしの隙間では電界が回り込みます(フリンジ電界)。その及ぶ範囲は隙間の形状とフィルムの厚みで決まり、数十µm の程度であってcm ではありません。見え方も、切れ目に沿ったぼんやりした線であって、ゾーンが丸ごと状態を変えるものではありません。
見え方も対処も違うので、手を打つ前にどちらを見ているのかを決めておく価値があります。境界のぼやけた線はフリンジで、これは主にフィルムのパターニングの問題です。隣のゾーンが丸ごと透明側へ寄っていくのは共通電極の現象で、こちらはパターニングをいくら精密にしても消えません。
干渉はたいてい目で気づきますが、目は定量にはいちばん向きません。透過率は印加電圧に対して強い非線形です。しきい値を下回っている間は光学的にはほとんど何も起きず、少し超えたところで急に大きく変わります。しきい値の3分の1くらいの電圧がかかっているゾーンは、見た目には完全に不透明なのに、変化が見えるまであと一歩のところにいます。
まとめると、干渉はフィルム材料の性質ではなくゾーンが共有している電極の回路網の性質であり、届く距離は √(2/ωRscA) で決まり、その距離は電圧降下が許容できるフィルムであれば必ず1ゾーンより大きくなります。別のフィルムを選べば、クロストークと均一性のあいだで難しさが行き来するだけで、ωRscA という積が両方に出てくる以上、フィルムの選択でこの取引から抜けることはできません。
だからこそ当社は、これをフィルムの問題ではなく駆動の問題として扱っています。マルチゾーン調光システムは、共通電極が1枚のままの、加工していない一般的なPDLCフィルム——まさに上で述べた構成——で、各ゾーンを指定した透明度に保ちます。その手法は特許出願中であるため、ここでは取り上げませんが、実機での結果は同じページの写真と6ゾーンの例をご覧ください。
お手元の調光フィルムでマルチゾーン制御をご確認いただける評価キットをご用意しています。面抵抗・駆動周波数・ゾーンの割り方について、案件に即したご相談も承ります。
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