調光フィルムの資料に書かれている「◯ W/m²」という値は、そのフィルム固有の定数ではありません。同じフィルムでも、コントローラが何ヘルツで駆動するかによって消費電力は変わります。理由は単純で、調光フィルムが電気的にはコンデンサだからです。
結論
| 変えるもの | 消費電力への効き方 | 例 |
|---|---|---|
| 駆動周波数 | おおむね比例 | 2倍にすると約2倍 |
| 駆動電圧 | 2乗で効く | 1.2倍にすると約1.44倍 |
| 面積 | 比例 | 2倍にすると2倍 |
このうち周波数だけは、フィルムではなくコントローラ側が決めている値です。つまり同じフィルムを使っていても、どのコントローラで駆動するかで消費電力が変わります。カタログの W/m² を鵜呑みにして電源容量を決めると、想定より足りない、あるいは大幅に余るということが起こります。
調光フィルムは、透明電極を貼った2枚のフィルムで薄い層を挟んだ構造をしています。電気的に見ると、これは誘電体をはさんだ平行平板、つまりコンデンサそのものです。
コンデンサは直流を通しません。交流をかけると、電圧の向きが変わるたびに充電と放電を繰り返します。この電荷の出入りのたびに、内部の材料と電極の抵抗でわずかな熱が出ます。1回あたりの熱はごく小さいのですが、これが1秒あたり周波数の回数だけ繰り返されるので、回数が2倍になれば発生する熱も約2倍になります。これが「消費電力が周波数に比例する」ということの中身です。
式で書くと、こうなります。
P ≈ 2πf · C · V² · tanδ
f が駆動周波数、C がそのフィルムの静電容量(面積に比例します)、V が駆動電圧、tanδ は誘電正接と呼ばれる、材料で決まる係数です。上の表の3つは、すべてこの式から出ています。
※ 厳密には tanδ そのものも周波数によって多少変化するため、正確な比例にはなりません。設計の目安としては「おおむね比例」と考えて差し支えありませんが、周波数を大きく変える場合は実測での確認をおすすめします。
理屈のうえでは、直流なら充放電が起きないので消費電力はごく小さくなります。しかし調光フィルムを直流で駆動してはいけません。
層の中には、材料に由来するわずかなイオン性の不純物が含まれています。一方向の電界をかけ続けると、これが片側の電極に寄って内側から電界を打ち消してしまい、同じ電圧をかけているのに実効的な電圧が下がっていきます。見え方としては、透明にしたはずの面が時間とともに濁ってくる、という形で現れます。さらに電極や材料そのものの劣化も進みます。
このため調光フィルムは交流で、直流成分が残らないように駆動します。液晶を使う表示装置が交流駆動されているのと同じ理由です。「消費電力を下げたいから直流で」という選択肢は、最初から存在しません。
これは正しい方向です。周波数を下げれば消費電力は下がります。ただし下限があります。
調光フィルムの明るさは、かかっている電圧の大きさで決まります。交流である以上、電圧は周期的にゼロを通過します。周波数が十分に高ければ、その変化は速すぎて目には平均としてしか見えません。しかし周波数を下げていくと、やがて明るさの周期的な揺れが「ちらつき」として見えるようになります。面積の大きい間仕切りや窓では、これはかなり目立ちます。
実際に使われている範囲は、おおむね 40 Hz 程度から数百 Hz までと幅があります。商用電源と同じ 50〜60 Hz が最も多く、当社の駆動可能面積の目安も 60 Hz を基準にしていますが、ちらつきを抑えたい、応答を速くしたいといった理由で、あえて高い周波数で駆動する製品もありますし、当社製品も駆動周波数を変更できます。その場合、ここまで見てきたとおり消費電力は増えます。周波数は、ちらつきと消費電力のあいだで決められている値だとお考えください。
ここまでの話から、実務上いちばん効いてくるのがこれです。駆動周波数の書かれていない W/m² は、他社の値と比較できません。
たとえば、50 Hz で測って 3 W/m² と書かれたフィルムと、60 Hz で測って 3.5 W/m² と書かれたフィルムがあったとします。数字だけ見れば前者のほうが省電力に見えますが、前者を 60 Hz 換算すると 3.6 W/m² になり、順位が入れ替わります。
これは机上の話ではありません。ある国内メーカーの製品ページでは、ノーマルモードとリバースモードの消費電力がどちらも 5 W/m² と書かれていますが、注記を読むと測定条件は一方が 40 Hz、もう一方が 60 Hz です。同じメーカーの同じ表の中でも、条件をそろえて読まなければ比較になりません。
もっとも、こうした注記がきちんと書かれているのはメーカー本体の技術資料のほうで、商社や施工業者の資料では「3〜5 W/m²」とだけ書かれていることが少なくありません。条件が書かれていなければ、確認する価値があります。
フィルムを選定するとき、消費電力について確認しておきたいのは次の3点です。
1. 電源容量と発熱
周波数が高いほど、同じ面積でもフィルムに流れる電流は大きくなります。電源の容量が足りなければ、透明にしきれない、あるいは複数ゾーンを同時に切り替えたときだけ挙動がおかしい、といった形で表面化します。
2. 1台で駆動できる面積
コントローラの出力には上限があります。消費電力が周波数に比例する以上、周波数が高いほど、1台で駆動できる面積は小さくなります。逆に言えば、駆動可能面積を語るときは周波数をそろえないと意味がありません。
3. 均一に光らせられる大きさ
同じ「コンデンサである」という性質は、実はもう一つ別のところにも効いてきます。透明電極にはわずかな抵抗があり、そこに電流が流れると、給電している辺から遠い場所ほど電圧が下がります。遠い側だけ透過率が変わって、面がむらに見える原因です。
この電流もやはり周波数に比例して増えるため、周波数が高いほど、均一に光らせられる距離は短くなります。距離は2乗で効くので、周波数を4倍にすると、許容できる給電距離はおよそ半分になります。この話は次の記事で詳しく扱います。